1.はじめに
学生が進路や将来について考え始めるとき、教職員の皆さんは、相談を受けたり、何気ない会話の中で学生の想いを聞いたりする機会があると思います。その際、学生から「やりがいのある仕事に就きたい」、「誰かの役に立ちたい」、「安定した収入を得たい」といった目標が語られることもあるでしょう。こうした目標に、どのように耳を傾け、どのような言葉をかけるかは、学生のその後の考え方や心のあり方に少なからず影響を与えます。近年の心理学領域における研究では、人生目標の持ち方が、精神的健康や幸福感と深く関わっていることが示されています。本記事では、学生の人生目標に向き合う際に、教職員の皆さんが意識しておきたい関わり方を提案します。
2.どのような人生目標を立てるとよい?
人生目標をどのように設定するかで、基本的心理欲求の充足のされ方に違いが生じ、精神的健康や幸福感にも影響を与えると言われています。内発的人生目標とは、人間の基本的心理欲求(①自律性への欲求、②有能さへの欲求、③関係性の欲求)に応じた目標のことです。具体的には、(1)自分を受け入れること(自己受容)、(2)親しい人との関係を深めること(親密性の獲得)、(3)社会や他者の役に立つこと(社会貢献)、(4)体を大切にすること(身体的健康)をめざす目標になります(表1)。一方、外発的人生目標は、人間の基本的心理欲求と一致しない目標です。具体的には、(1)お金を多く稼ぐこと(金銭的成功)、(2)見た目の良さを重視すること(外見的魅力)、(3)有名になることや評価を得ること(社会的名声)をめざす目標になります(表1)。

内発的人生目標を重視することが、精神的健康につながり、外発的人生目標を重視することが精神的健康を害するということが報告されています。こうした結果は、国や文化を超えて普遍的であることもほぼ確認されていると報告されています(櫻井,2024)。こうした知見を踏まえて、『動機づけ研究』に長年にわたり取組んできた研究者は、「内発的人生目標を主、外発的人生目標を従として持つことがよい」と助言しています。また同時に、「外発的人生目標を持ってはいけないということではない」ことも強調されています(櫻井,2024)。
3.人生目標について話題になった際の学生への関わり
学生と人生目標について話す機会には、学生一人ひとりの考えや価値観を尊重しながら、学生のペースに合わせて話を聴いてみましょう。そうした関わりが、学生が心の健康を保ち、幸福感をより感じやすい人生設計を考えていく手助けになると思います。
1.人生目標が外発的な目標(たくさん稼げる仕事に就きたい、有名になりたい等)、であっても、まずは学生の話を聴き、その理由を尋ねてみましょう。内発的な目標(誰かの支えになりたい、自分の成長を実感したい等)につながっているかもしれません。
2.学生が人生目標について話した際には、内発的目標を自分の言葉で語れるように、問いかけをしてみましょう。
例えば、「それは、あなたにとってどんな意味がありそうですか?」「どんな人との関係が生まれそうですか?」「あなた自身の成長につながりそうですか?」といった質問が考えられます。
3.教職員の皆さんが、仕事のやりがい、人間関係の大切さ、社会貢献の意味を語ってみましょう。
そうした語りは、学生が進路を選んだり、将来のキャリアについて考えたりする際の重要なヒントや参考材料になります。
4.まとめ
(1)学生と人生目標について話題になった際には、学生の人生目標の内容とバランスに目を向け、内発的人生目標を“主”に育てる関わりをすることが重要です。
(2)教職員の皆さんが、仕事のやりがい、人間関係の大切さ、社会貢献の意味を語ることも、学生にとっては、自身の進路やキャリアを考える際の貴重な材料になります。
引用文献
①西村多久磨・鈴木高志他(2017)キャリア発達における将来自標の役割-生活満足度 学習動機づけ 向社会的行動との関連から- 筑波大学心理学研究,53, 81-89.
②桜井茂男(2024)動機づけ研究の理論と応用-個を活かしながら社会とつながる- 金子書房
