1.はじめに:
フィードバックは、学生の成長を促進する上で非常に重要な役割を果たします。
特に、ネガティブフィードバックは、学生が自身の課題に気づき、改善するための貴重な手段です。
しかし、ネガティブな指摘は、伝え方を誤ると学生のモチベーションを低下させ、場合によっては学習意欲を損なうリスクを伴います。
大学教職員として、どのようにして効果的なネガティブフィードバックを伝えられるか、本記事では心理学の専門的視点から考察し、具体的なコミュニケーションの方法を提案します。
ポジティブフィードバックについては関連記事をご覧ください。

2. ネガティブフィードバックの意義
ネガティブフィードバックは、学生が自身の行動や成果を客観的に見直し、次のステップに進むためのガイドラインとなります。
学生は、自己評価のズレを修正し、より高い学習成果を得るために、適切なフィードバックを必要としています。
**Hattie & Timperley (2007)**の研究によると、
フィードバックは、その内容だけでなく「伝え方」が学習者の成長に大きな影響を与えることが示されています。
3. ネガティブフィードバックの伝え方の工夫
ポジティブフィードバックと組み合わせる
ネガティブフィードバックを伝える際に重要なのは、ポジティブフィードバックとバランスを取ることです。
学生が行った良い点を最初に伝えることで、肯定感を持たせつつ、改善すべき点を後に提示します。
例えば、
「あなたのレポートは構成がよく、資料の選定も素晴らしいです。次回は、結論部分にもう少し具体的なデータを加えてみましょう」
といったように、学生の成果を評価した上で改善点を伝えることで、フィードバックを受ける側の抵抗感を減らし、前向きに受け入れてもらうことができます。
人格を否定せず、行動や成果の改善に焦点を当てる
ネガティブフィードバックの伝え方において、学生の「人格」を否定するのではなく、「行動」や「成果」について改善を促すことが重要です。
人格を否定するフィードバックは、学生の自尊心を傷つけ、自己効力感を損なう危険性があります。具体的な行動や成果に焦点を当てたフィードバックが効果的です。
コラム:学生の発表のフィードバックタイム
- 背景:
-
ある大学のゼミにおいて、学生Cが発表を行いました。内容は興味深いものでしたが、準備不足で説明が不明瞭だったり、資料が整理されていない部分が目立ちました。教員Dは、学生Cのモチベーションを損なわないように、人格に対する批判ではなく、行動と成果に焦点を当てたフィードバックを意識して行います。
- (肯定的なフィードバックを先に与えることで、学生の努力を認め、安心感を与える)
教員D
Cさん、お疲れ様。まず、発表のテーマ自体が非常に面白くて、特にデータの選び方に工夫が見られた点は良かったと思います。
- (学生が自ら課題に気付いていることを確認する)
学生Cありがとうございます。少し準備不足を感じていたので、少し心配でした
- (行動や成果に焦点を当て、具体的な改善策を提示する)
教員D確かに、今回の発表では時間配分やスライドの整理に改善の余地があると思います。でも、それは次回もっと準備に時間をかければ、確実に改善できる点です。たとえば、スライドにはもっと箇条書きを増やして、ポイントが整理されると聞き手も理解しやすくなると思います。
- (学生の自己改善意識を引き出す)
-
学生Cご指摘のとおり、確かにスライドの準備にもっと時間をかけるべきだったと思います。次回は気をつけます。
- (学生の努力や成長の可能性を強調して、前向きな姿勢を促す)
教員Dそうですね。テーマ自体はすごく魅力的なので、少しプレゼンテーションスキルに磨きをかければ、もっと強力な発表になりますよ。発表の練習も重要なので、次回の準備の際はぜひ相談してください。
4.「褒めると学生が気を抜く」という考え方への対応
「褒めると学生が気を抜く」という懸念を持つ教職員もいますが、適切なポジティブフィードバックは学生の成長を促進するものです。
重要なのは、フィードバックの中に今後の成長に向けたアドバイスを盛り込むことです。
ポジティブな評価に、改善点を加える
これにより、学生は満足感を得ながらも、さらなる成長を目指す意欲を持つことができます。



このレポートは構成が素晴らしいですが、次回はさらに具体的なデータを加えてみると良いでしょう
結果に対してだけでなく、プロセスを褒める
これにより、学生は努力を続けやすくなります。



この課題に向けて、綿密に計画を立てて進めている点が素晴らしいですね
コラム:ポジティブフィードバックは内発的動機づけを阻害する?
ポジティブフィードバックは、内発的動機づけを高める強力な手段ですが、
しばしば「外的報酬として内発的動機づけを損なうのではないか」と誤解されることがあります。
しかし、自己決定理論によれば、有能感は内発的動機づけを促進する要素の一つであり(他は自律性と関係性)、
ポジティブフィードバックはその有能感を高めます。
特に、具体的な努力やプロセスに焦点を当てたフィードバックは、
単なる賞賛ではなく、自己効力感を強化します。
これにより、学生は自分の能力に自信を持ち、さらなる挑戦への意欲が引き出されます。
ポジティブフィードバックは、内発的動機づけを阻害するどころか、成長を促し、より自主的な学習態度を生み出します。
5. 褒められるのが苦手な一部の学生への対応
一部の学生は、ポジティブフィードバックを受けることに抵抗やプレッシャーを感じる場合があります。
自己評価が低い学生や、
過度に謙虚な性格の学生に対しては、
褒め方に工夫が必要です。


フィードバックのバランスを意識する
ポジティブな点と改善点をバランス良く伝えることで、学生が褒められることに対する不安を軽減できます。
「この部分はとても良かったですが、次回はこの点を強化するとさらに良くなります」と伝えることで、過度なプレッシャーを与えずに成長を促します。
非言語的なフィードバックを取り入れる
言葉で褒められることが苦手な学生には、笑顔やうなずきといった非言語的なフィードバックが有効です。
これにより、褒められているというプレッシャーを軽減しながら、努力が評価されていることを伝えることができます。
5. まとめ:学生支援におけるポジティブフィードバックの力
ポジティブフィードバックは、学生の学びを促進し、モチベーションを高める強力な手段です。
褒めることに苦手意識を持つ教職員でも、具体的に評価する工夫や、適切なタイミングでのフィードバックを行うことで、学生の成長を支援できます。また、褒められることに対してプレッシャーを感じる学生にも、個別に対応することで、安心して学びに取り組む環境を整えることができます。
日常のコミュニケーションの中で、適切なフィードバックを活用し、学生の自己効力感を高めていくことが重要です。
コメント