1.はじめに
大学等に入学した後に、修学場面や生活場面での出来事から、学生自身や周囲が発達障害の特性(サイン)に気がつく場合があります。ここではすぐに使える短期対応と中長期的な支援のヒントを紹介します。ただし、観察されるサインがあるからといって、即座に発達障害であると決めつけることは避けましょう。安易にラベリングする(「あなたは発達障害だと思う」「○○の特徴があるから発達障害だ」と一方的に伝える)ことで、学生本人が傷ついたり、支援につながることが難しくなります。まずは学生自身が「何に困っているのか」を丁寧に確認することが大切です。
2.架空事例1:ゼミで「細かい指摘」を繰り返す学生
(1)状況
他の学生がゼミで発表している場面で発表している学生が言い間違った時、その場で何度も指摘して発表が中断する。
(2)観察されるサイン
社会的文脈(場の空気)への気づきが薄い。
他者の意図や冗談をくみ取れない様子。

(3)現場での短期対応
指摘が出たときは、教員が「ありがとう。後で補足しますね」と一旦受け流して発表の流れを守る。
発言ルール(例:質問は挙手→教員の合図で発言)を事前に周知し、場のルールを明確にする。
(4)中長期の支援
個別面談で学生本人の困りごとを聞き、指摘したくなる背景(正確さへの強いこだわりなど)を確認する。
ゼミ運営ルールや期待する行動を文章化して、全員に共有する(暗黙のルールは避ける)。
(5)留意点
叱るのではなく「望ましい行動」を具体的に示すことで、本人が行動を変えやすくなります。
誰にとってもわかるようにルールを明文化することが重要です。
3.架空事例2:レポートの未提出・遅刻が多い学生
(1)状況
提出物を出せない、いつも授業に遅刻してくる学生がいる。
(2)観察されるサイン
〇締め切りを守れない、予定のダブルブッキングが多い。
〇本人は「やる気はある」と言う一方で、予定管理や時間配分が苦手。

(3)現場での短期対応
〇締め切りを細かく分けて提出させる(小さな段階ごとに中間チェックを設定する)。
〇メールや学内システムでの提出リマインドを活用する。
〇口頭での確認だけでなく、提出方法や期日を文章で明示する。
(4)中長期の支援
〇学生と共に「スケジュールの見える化(例:週間プラン)」を作る。
〇学生相談室(九州大学キャンパスライフ・健康支援センター)に、時間管理の方法や自らの困りごとについて相談をするよう促す。必要に応じて、締め切り期限の延長や重要情報の書面提示などの合理的配慮を検討する。
(5)留意点
学生の状態を「怠け」と捉えず、具体的な代替手段(小分けの締め切り、リマインド、支援窓口の紹介)を示すことが重要です。支援は本人の尊厳を損なわない形で行い、本人の選択を尊重してください。
4.まとめ
(1)授業やゼミでの気づきから「困りごと」を拾い、まずは面談で本人の話を聞いてみましょう。
(2)ラベリング(障害があると安易に決めつけること)は避け、必要に応じて支援の窓口へつなぎましょう。
(3)現場でできる短期対応と中長期支援(学生相談室への相談、合理的配慮の申請等)を組み合わせましょう。
参考文献
独立行政法人 日本学生支援機構(2015)「教職員のための障害学生修学支援ガイド(平成26年度改訂版)」 https://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/shogai_infomation/shien_guide/index.html
独立行政法人 日本学生支援機構(2025)「令和6年度(2024年度) 大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書」https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/__icsFiles/afieldfile/2025/10/27/2024_houkoku_2.pdf
