1.はじめに
大学の履修に関する事務窓口には、日々、様々な学生が訪れていることでしょう。その中に、事務手続きにつまずき、人知れず苦労している学生がいるように思います。例えば、職員の皆さんが窓口業務を担当する中で、次のような特徴のある学生はいませんか?
・事務窓口の付近でうろうろしているが、自分から話しかけてこない
・一通り説明を行ったが、質問を何度もしてくる
・提出期限までに書類が提出されていない

私たち学生相談室のカウンセラーが相談の場で出会う学生の中にも、履修手続きがうまく進まず、単位取得に困難が生じている学生が多くいます。本記事では、カウンセラーが見聞きした「職員の方のこの配慮で学生が救われた」というエピソードの中から、職員の皆さんの工夫を紹介したいと思います。
2.事務手続きに戸惑っている学生とは
先ほど述べたような特徴を示す学生は、発達特性が強い可能性があります。
その他にも、下記のような特性を持っているため、手続きにつまずいているケースもあります。
□自分が何に困っているかを認識したり、それを言語化することが難しい
□情報の取捨選択が苦手である
(例:大量のメールの中から、自分にとって重要なメールを探し出せない)
□スケジュール管理が苦手である
□タスクを先延ばしにすることが多い
□見通しが持てないと不安になる(混乱する)
□情報処理の方法に得意・苦手がある
(例:視覚情報の処理は得意で聴覚情報の処理は苦手※その反対もあります。)

学生には、ぼんやりと「困っている」感覚があっても、事務手続きへの苦手意識から、先延ばしにしてしまうことが多いようです。授業への出席や課題の提出よりも一歩手前のところでつまずいてしまい、結果として履修がうまく進まないケースも少なくありません。こうした学生の中には、自分のつまずきを周囲に知られるのが恥ずかしくて、手続きについて「わからないと言えない」、あるいは「面倒なので、やる気が起きない」と話す学生もいます。こうした学生の気持ちに寄り添い、事務手続きをサポートすることは、学生が学びを継続し、メンタルヘルスを維持する上でとても重要です。職員の皆さんの「小さな工夫」が学生たちにとって大きな支えとなり、修学を進めていく上で励みになります。
3.職員の方から学んだ対応の工夫
職員の皆さんとのやりとりの中で、学生が救われた対応に出会うことがありました。
以下に、心に残っている例を紹介したいと思います。
ある学生は、履修の手続きに関する書類を読んでいましたが、途中でわからないことが出てきたため、勇気を出して、事務窓口に尋ねに行きました。質問も自分なりに準備していったのですが、いざ、職員の方を目の前にすると、「えっと…」と言った後、言葉が出てきません。職員の方は、「どういった用件ですか?」と穏やかにゆっくりとした口調で尋ねてくれました。その後、この学生が「〇〇(大まかな内容)のことがわからなくて…」と話したところ、職員の方は「〇〇というのは、Aのことですか?それとも、Bのことですか?」と選択肢を示してくれました。こうしたやりとりを通して、この学生は自分が質問したいことを職員の方に伝えることができ、履修登録を無事に済ませることができました。
ある学生は、事務窓口で履修登録の流れについて一通り説明を受けましたが、今後、自分が何をすればよいのかわからず、話を聞いているうちに表情が曇っていきました。その様子を察知した職員の方は「まずは~をしましょうか」と学生が取るべき行動を具体的に教えてくれました。また、その手続きを行う際に参照する「Webサイトのページ」をプリントアウトし、最初に操作すべき箇所に蛍光マーカーで線を引いてくれました。そして、「わからないことが出てきたら、この窓口にまた来てくださいね。平日の〇時~〇時は、空いています」と伝えました。この学生は、履修登録に必要な手続きの第一歩をスムーズに進めることができました。また、困った時には事務窓口を訪ねることができるようになりました。
日々多くの業務をこなされる中で、ここまで細やかに関わることは難しいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、学生にとって必要な情報を効率的に伝えることで、学生の困りごとが解消することは、職員の皆さんにとっても、ちょっとした達成感につながるのではないでしょうか。また、その後の手続きがうまく進むことで、余分な時間とエネルギーを注ぐ必要がなくなり、職員の皆さんの負担軽減につながるように思います。
職員の皆さんの温かく誠意のある関わりで、「また困ったら窓口に尋ねにいけばいいんだ」「手続き関係は、〇〇さん(職員の方)に聞きに行けば大丈夫」と学生が安心感を抱いているケースが多々あります。学生の困っている立場に寄り添い、親身になって接してくださっている姿には本当に頭が下がります。この場をお借りして、学生の修学や生活を支えてくださっている職員の皆さんに、感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。
4.まとめ
(1) 事務手続きにつまずいている学生の中には、発達特性を強く抱えた学生がいることが想定されます。事務窓口での対応は、具体的な選択肢を示したり、視覚情報を提示して説明することで、コミュニケーションが 円滑に進むケースもあります。
(2) 学生が困っている立場に寄り添い、事務手続きのサポートすることは、学生にとって大きな支えであり、修学を進めていく上での励みになります。
