1.はじめに
皆さんは、会議の場や話し合いで何かを決めたり、課題を達成したりする場面で、どのように発言すればよいか悩むことはないでしょうか?ここでは「問題解決のためのアサーション」として知られている「DESC法」を紹介します。この方法は、ステップを踏んだセリフを事前に考える際に役立ちます。また、セリフを考える過程で、自分の気持ちや考えが明確になり、相手にも伝わりやすいセリフを準備することができます。
2.DESC法とは?:自他尊重のコミュニケーションで問題解決を図る方法
DESC法とは「問題解決のためのアサーション」と呼ばれ、事前にステップを踏んだセリフを組み立てておく方法です。DESC法の「DESC」とは、各ステップを英語で表記した場合の頭文字を取っています(図1:上段)。
D=Describe(描写する)→E=Express(表現する) →S=Specify(特定の提案をする) →C=Choose(選択する)
例えば、次のような状況を想定した場合、「DESC法」を用いると図1(下段)のようなセリフでコミュニケーションを図っていくことになります。
あなたは教員として学生(Aさん)の研究指導にあたっています。研究室にコアタイムはなく、学生の自主性に任せて研究に取組むようになっています。研究室では、複数の実験チームを組んで研究に従事する体制を取っています。学部4年生のAさんはデータ分析を担当していますが、(同じ実験チームの他のメンバーの話では)研究室で作業する時間が短いようです。そのため、Aさんが所属するチームは進捗が遅れている状況となっており、他のメンバーの不満も溜まっています。Aさんには、データ分析が終わった段階で、教員に結果を報告するように伝えていますが、これまでにも〆切期限を過ぎてから報告することが数回ありました。あなた自身もスケジュール通りに仕事が進まず困っています。Aさんには何とか期限内に報告するようにして欲しいと強く思っています。

指導教員のセリフからどんな感じを受けるでしょうか?自分の考えや気持ちを大事にしながらも、相手にとっても受け取りやすいメッセージを伝えることができているように思います。DESC法は「状況を確認したうえで自分の責任で行う、アサーションの基本」(平木,2009)と捉えられています。DESC法を繰り返し練習することでアサーションが身についていきますので、ぜひチャレンジしてみましょう。
3.DESC法を活用する際の留意点とは?
DESC法を活用する際に、各ステップに留意しておくべきポイントがあります(表1)。
上記のケース(状況)での指導教員のセリフを例に挙げて説明していきます。
表1.DESC法を活用する際の留意点
(1) Describe(描写する)
誰もが認めることができる客観的な事実を描写するようにしましょう(お互いの共通認識を作ることが大切です)
〇データ分析の結果について(〆切期限は3日前でしたが)今日のお昼頃に私は報告を受けました。
×データ分析の結果報告が遅いので非常に困っています。(←主観が混じっている)
(2) Express(表現する)
(1)で描いた事柄や言動に対する、自分の感情や気持ち等を率直に伝えましょう。
「I(アイ)メッセージ」(私を主語にしたメッセージ)で伝えることがポイントです。
〇計画が予定通りに進まずに(私は)負担に感じています。
×いつも報告が遅れているじゃないか!(君は)一体どういうつもりなんだ!
(3) Specify(明確に提案する)
提案を行う際には、実行可能で小さな行動の変容を目指すものにしましょう。
〇少なくとも毎日2~3時間は、研究室に来て、データ分析の作業を進めてください。
(※学生の生活状況も確認しながら、まずは小さな目標を立てる必要があります。タスクの内容については、予想される作業時間、学生が取組むペースを勘案しながら、教員と学生で話し合う必要があるでしょう。)
×これから1週間は、毎日8時間は研究室に来て、データ分析の作業を進めてください。
(4) Choose(選択する)
選択肢は、具体的・実行可能なもので、相手を脅かすものではないように注意しましょう。
〇週に3日はまとまった時間を作ってデータ分析の作業を進めてみてはどうでしょうか。
×空いている時間があれば、全てデータ分析の作業をする時間にあてなさい。(←実行不能、現実的ではない)
また報告が〆切期限に遅れることがあったら、二度と指導はしないつもりです。(←脅しになっている)
感情が先走ってしまうと、不適切な発言につながってしまうことがあります。一旦、落ち着いてからDESC法を用いて、自分の考えや気持ちを十分に伝え、相手を傷つけないために、どのような伝え方ができるか考えるようにしましょう。
4. まとめ
(1)DESC法は「問題解決法のアサーション」で、①描写する→②表現する→③提案する→④選択するの各ステップを踏んでセリフを組み立てていく方法です。DESC法を繰り返し練習することで、アサーションが身についていきます。
(2)DESC法の基本が実践できるようになったら、DESC法を活用する際の留意点も意識してみましょう。
引用文献
①平木典子(2009)改訂版アサーション・トレーニング―さわやかな<自己表現>のために― 東京:日本・精神技術研究所
②平木典子(2007)自分の気持ちを<きちんと>伝える技術-人間関係がラクになる自己カウンセリングのすすめ― 東京:PHP研究所