1.はじめに:チームで成果を上げることを求められる場面は?
教職員の皆さんは、チームで成果を上げていくことを求められる場面も多いと思います。特に、理工系の研究室ではチームを組んで研究を行うことが多いため、チームがうまく機能するかは成果に直結する切実な課題ではないでしょうか。チームのリーダーは、何を意識してどのように行動すればよいのでしょうか?ここでは、組織行動学・社会心理学の領域で研究されている知見を交えながら、リーダーに求められる行動を解説していきます。
2.不確実な時代に求められるリーダーシップとは?
不確実な時代におけるリーダーシップのあり方として、心理的安全性を高めるための12の行動が考案されています(青島,2021)。このリーダーシップ行動は、Edmondson、Kohlreiserが提唱するリーダーの行動を参考に、企業研究やフィールドワーク、コンサルティング支援の実績をふまえて提案されたものです。また、これらの行動は、セキュアベース・リーダーシップの(1)「安心」(安全・安心の場を作ること)と(2)「挑戦」(挑戦の場を作ること)の2軸で分類できるとされています(表1)。「リーダーは、メンバーが人と目標の絆を形成できるように、「思いやり」と「挑戦」の二つにまつわるリーダーシップ行動を上手に使いながら、人と組織の成長を支援していくことが必要」(青島,2021)です。



3. 心理的安全性への影響が大きいリーダーシップの特性とは?
セキュアベース・リーダーシップの特性のうち、心理的安全性への影響力が大きい特性は「いつでも話せる」「冷静でいる」「傾聴し質問する」の3つであることが明らかになっています(図1)。 ここでは、この3つの特性に焦点を当てて詳しく説明していきます。

(1)いつでも話せる・オープンさ
「いつでも話せる感」とは「メンバーにとって何か困った時にはいつでも頼れる存在であると思われているか」という意味です。大切なことは「物理的に近い距離にいて、いつでも“話せる”という実際のコミュニケーションではなく、“遠くにいたとしても、必要な時は手を差し伸べてくれる”という本人の感覚」です。
いつでも話せる状態を作るための工夫
〇話せる時間(オフィスアワー)を共有スケジュール表に明記しておく(OutlookやGoogleのスケジュール等)
〇メールや電話には、適切な時間内に返答する
〇相談があった場合は、忙しくても必ず時間を取る
(2)冷静でいる
「冷静でいる」ことは「日頃から気分や感情が安定している、プレッシャーを受けても冷静でいられる」ことを意味しています。リーダーの「『矛盾がない行動』は心理的安全性・安全基地を作るために大切な要素」であるとされています。
冷静さを保つアプローチ
〇感情のモニタリングのスキルを上げる
…状況に反応している自分を客観的に見て、今、自分が「怒っている」「イライラしている」「不安に思っている」ということに気づく。
(3)傾聴し質問する
リーダーは「相手の意見や質問を本心から聴きたいと思う気持ちを込めて傾聴することが大切」です。「心理的安全性が低い職場の原因の多くは、発言する側の問題ではなく、発言を受け止める側の姿勢・態度にある」とされています。
「聴く」行動チェックリスト:あなたの日頃の聴く行動について振り返ってみましょう(あてはまる項目に〇をつけて下さい)。
1.話しかけられた時、行っている作業をやめ、相手に顔を向けて話を聞く姿勢を取っている。
2.相手の話を途中で遮ったり、否定したりすることなく、最後まで聞いている
3.メンバーに対して、うなずき、相づち、合いの手等の反応を交えながら、会話している
4.挨拶やメールに対して必ず返事をしている
5.先入観を持たずにメンバーの話を聞いている
6.結論を急がせたり、先取りしたりすることなく、メンバーの話を聞いている
7.メンバーの話を聞いているときに、結論は何かや次の質問を考えてしまうことはない
4.まとめ
(1)リーダーは思いやりと挑戦のリーダーシップ行動を上手に使って、人と組織の成長を支援していくことが重要です。
(2) 心理的安全性への影響力が大きい特性は「いつでも話せる」「冷静でいる」「傾聴し質問する」の3つです。各々の特性について行動レベルで工夫してみましょう。
引用文献
青島未佳(2021)リーダーのための心理的安全性ガイドブック―本当に強いチームを作るためにリーダーはどうするべきか― 山口裕幸(監修)労務行政