1.はじめに:
大学は、多様な文化や背景を持つ学生が集う場です。
特に近年では、留学生の増加や多様な価値観を持つ学生が増え、
教職員はその背景を理解し、適切なコミュニケーションを図ることが求められています。
その中で、「氷山モデル」という概念が効果的に役立ちます。
このモデルを通じて、表面的な文化的違いだけではなく、学生一人ひとりが持つ深層の価値観や信念について理解し、より豊かなコミュニケーションを築くことことが可能です。
2. 氷山モデルとは

氷山モデルは、文化や個人の価値観を理解するためのフレームワークです。
氷山の上に見える部分が「表層文化」、すなわち、言語や習慣、行動といった、目に見える側面を指します。
一方、氷山の水面下には、信念や価値観、意識的・無意識的な思考が存在し、これが「深層文化」として機能します。
多文化対応のコミュニケーションにおいては、
この「水面下に隠れた部分」を意識し、それを理解することが重要です(Hall, 1976)。
学生相談・カウンセリングにおいては、しばしば研究や教育に関する問題が取り上げられますが、
その背景に、教員と学生の間の教育観や研究観の違いといった深層文化が複雑に絡み合うことが少なくありません。
【教員と留学生との具体例】
『日本文化論』の授業中、あるアジア圏出身の留学生が意見を求められましたが、
授業中は黙ってしまい、回答を避ける傾向がありました。
この学生は、母国で教員の意見に従うことが重要視される文化で育っており、
教授に対して異なる意見を述べることに大きな不安を抱えていました。
- 非公開のフィードバック:授業後に個別で学生に「授業での発言についてどのように感じているか」を確認し、プレッシャーがない授業後の環境で学生の心情を引き出します。
- 文化への共感を示す:学生の母国の教育スタイルについて尋ね、「日本の授業とは違う部分があれば教えてほしい」と伝えることで、学生が安心して自分の文化的背景を話せるようにします。
- 参加形式の工夫:その学生が授業で意見を述べやすくなるよう、グループディスカッションの形式にしたり、事前に質問を準備できるようにします。
教員がこのアプローチを実施した結果、学生は次第に自分の意見を述べることに自信を持つようになり、授業への参加意欲が向上しました。
また、クラス全体の多文化理解も深まり、他の学生も意見交換に積極的に取り組むようになりました。
3. 氷山モデルの活用:多文化対応コミュニケーションのアプローチ
多文化対応のコミュニケーションにおいて、教職員は氷山モデルを使って以下のアプローチを取ることができます。
表層文化を通じた対話と理解
自文化の表層的な側面に関しては、
異なる文化圏の人からも視覚的に把握しやすく、理解されやすいものです。
文化の表層的側面は、
「私の出身は〇〇で、地元の郷土料理としては△△というのがあって」という具合に、
いわゆる“自己紹介”で登場させやすい話題と言って良いかもしれません。
教職員の立場からは、学生と対話をする、あるいは学生についての理解を深める際の足がかりとして、
学生の出身地の話題や特産品、名物料理などの話を聞いてみるのはとても良い方法と思われます。
なぜなら、文化の表層は、学生にとっても言葉で説明しやすい自文化の側面だからです。
深層文化に対する思いやり、好奇心
表面的な行動の背後にある深層文化は、ある種の問題として思いがけず露見することが少なくないかもしれません。
学生にとっても、教職員にとっても、「当たり前」が違うことから生じるすれ違いです。
例えば、留学生であれば、「母国ではどのような教育を受けてきたのか」「なぜそのように感じるのか」、
学生としてもなかなか言葉にならないことを、辛抱強く対話を通じて知ることが重要です。
それを通じて、ようやく顕在化された文化間のギャップに迫ることができると言えましょう。
氷山モデルを応用したマイノリティ理解
氷山モデルは、多文化対応コミュニケーションにおける文化差を考えるうえ有用であるだけでなく、
社会的な少数派(マイノリティ)の視点を考える上でも役に立ちます。
マイノリティに属する学生は、ジェンダー、宗教、障害など多様な背景を持ち、こうした「見えない側面」は氷山モデルの水面下に位置することが多いです。
例えば、マイノリティの学生が周囲と異なる意見や価値観を持つ背景には、
水面下にある個人的な信念や信条が深く関わっているのではと想像することは大切です。
例えば、留学生であれば、「母国ではどのような教育を受けてきたのか」「なぜそのように感じるのか」、
学生としてもなかなか言葉にならないことを、辛抱強く対話を通じて知ることが重要です。
それを通じて、ようやく顕在化された文化間のギャップに迫ることができると言えましょう。

4.氷山モデルの注意点
氷山モデルは有用なモデルですが、
文化的な差異以上に、個人差もまた重要な要素です。
同じ文化的背景を持つ学生であっても、個々の性格や信念は異なることが多いものです。
そのため、安易に決めつけをすることは「レッテル貼り」になりかねません。
氷山モデルを活用する際には、文化差と個人差を区別し、それぞれに対して柔軟に対応することが必要と思われます。
5. まとめ:多文化対応コミュニケーションの重要性
氷山モデルは、表層文化と深層文化の双方に焦点を当てることで、多文化対応のコミュニケーションを深めるための有効なツールです。
大学教職員は、学生との対話を通じてその背後にある価値観や信念を理解し、適切なサポートを行うことが求められます。
文化差だけでなく、個人差を尊重することが、学生の成長と学習環境の改善につながると考えられます。