1.はじめに
近年、学生支援に関する会議の場で「発達障害」という言葉を耳にすることが増えてきました。でも、私たちの理解が「何となく分かる」程度で終わっていると、授業や研究指導で戸惑う場面が出てきます。
本記事では、大学等(大学、短期大学、高等専門学校)で接することの多い発達障害について整理したいと思います。
2.発達障害って何だろう?
発達障害は生涯にわたる脳の働きの特性で、代表的なものとして自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)があります。特徴は一人ひとり違い、同じ診断でも得意・不得意は多様です。
以下で詳しく説明します。
(1)自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
幼い頃から続く特性で、「人とのやり取り」が苦手なことと、「行動や興味がとても限定されている」ことが主な特徴です。たとえば、相手の気持ちや意図をくみ取るのが苦手で、うまく会話が続かなかったり、友だちとの関係を築くのが難しかったりします。また、いつもと同じ手順や決まりごとに固執してしまい、予定が変わると強く戸惑ったり、柔軟に対応できなかったりすることもあります。 さらに、音や光、触感などに過敏だったり逆に気づきにくかったりする「感覚の違い」を持つ人もいます。以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」と呼ばれていたものが、現在は同じ連続した特性としてまとめられ、DSM-5では「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder、ASD)」という一つの概念で扱われています。

(2)注意欠如・多動性障害
注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)は、注意が続かなかったり、多動・衝動的な行動を抑えにくかったりすることで日常や学習に困りごとが出る状態です。
注意力には主に次の3つの面があります。
●状況に応じて注意を切り替える力(転換注意)
●長い時間じっと注意を保つ力(持続注意)
●同時にいくつかのことに気を配る力(分配注意)

これらのどれかがうまく働かないと、課題の提出が間に合わない、大きなミスをしてしまう、遅刻が多い、複数の仕事を同時にこなせない、よく物をなくす、といった困りごとが起きます。また、落ち着きがなくじっとしていられない、順番を待てない、並べる作業が苦手、思いついたことをすぐしてしまう(衝動性)などの行動上の問題も見られます。 ADHDはタイプに分かれていて、「不注意が主なタイプ」「多動・衝動が主なタイプ」「両方があるタイプ」があります。ただし、多動性は成長とともに目立たなくなることが多く、大学生では不注意(集中できない・忘れ物が多いなど)が中心のケースがよく見られます。
(3)限局性学習症/限局性学習障害
学習に関する困りごとの定義はいくつかあります。医療の分野では、知的な力に問題がないのに「読む」「書く」「計算する」のどれか一つ、あるいは複数が特に苦手な場合を「限局性学習症(Specific Learning Disorder)」と呼びます。一方で教育の場では、これに加えて「聞く」「話す」「推論する」といった力が著しく弱い人も含めて「学習障害(Learning Disabilities)」と呼ぶことが多いです。

大学生に見られるSLD及びLDは主に、文字を読むことが苦手な「失読(ディスレクシア)」、書くことが苦手な「書字障害(ディスグラフィア)」、数字や計算が苦手な「算数障害(ディスカリキュリア)」などがあります。授業内容は理解していそうでも、ノートやレポートがまとまらなかったり、試験の筆記で時間内に記述できなかったり、読み間違いや書字の乱れで学業成績に影響が出ることが多いです。語学や板書が足を引っぱる場合もあり、単に「努力不足」と見なされがちですが、努力だけで解決しにくい特性です。支援方法としては音声入力や読み上げソフト、要点整理された配布資料、デジタル提出の容認、試験時間延長などの合理的配慮が有効です。
3.まとめ
(1)発達障害は一人ひとり異なる特性で現れるため、“個別性(一人ひとりの特徴)”をまず確認しましょう。
(2)小さな環境調整(指示の工夫、締切の細分化、リマインド)が効果を生みます。
(3)学生を非難せず、「何に困っているか」を共に探す姿勢が重要です。
注釈:診断名については、日本精神神経学会(監修)2014年「DSM-5精神疾患診断・統計マニュアル(医学書院)」によるものです。
参考文献
独立行政法人 日本学生支援機構(2015)「教職員のための障害学生修学支援ガイド(平成26年度改訂版)」 https://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/shogai_infomation/shien_guide/index.html
独立行政法人 日本学生支援機構(2025)「令和6年度(2024年度) 大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書」https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/__icsFiles/afieldfile/2025/10/27/2024_houkoku_2.pdf
