1.はじめに
研究室運営や日頃の学生指導で、教員は学生からの相談にのることがあります。基本的な方法などはこのWebサイトの他の記事「信頼関係構築」でも掲載していますが、大学教員の視点から書かれた文献がいくつかあります。研究室で行う日常の学生相談や学生支援に寄り添って書かれたものですが、情報源がばらばらで探しにくいので、この記事でまとめて紹介したいと思います。
2.多様な学生への対応:書籍の紹介
『成長するティップス先生:授業デザインのための秘訣集』(池田他,2001)という本は、名古屋大学で教授法に関する秘訣集としてWebサイトにまとめられていたものが書籍化されたものです。特に新任の大学教員が授業をどのように展開すればいいのかについてのノウハウが書かれていて参考になります。
池田輝政・戸田山和久・近田政博・中井俊樹(2021)『成長するティップス先生 : 授業デザインのための秘訣集』玉川大学出版部 (※この本は、九州大学附属図書館(中央図書館・理系図書館)に所蔵されています。)
その中の10章は「学生の多様性に配慮する」ということで、学生の学習環境を守ること、留学生の学習を支援するためのティップス(コツ)、障害をもった学生の学修を支援するティップス(コツ)などが書かれています。そこに学生がもちかけてくる個人的相談への対処として、教員の役割は、①客観的な聞き手、②問題の整理役、③選択肢の提案者、④仲介者という4つが書かれています。要点は下記のように整理されます(表1)。
表1.相談相手としての教師の役割
①客観的な聴き手
あなたの考えや価値観を押しつけることはなく、「君はどう思うの?」「君はどうすればよいと考えるの?」と聞き役に徹することが重要。学生が明確にアドバイスを求める場合以外は、アドバイスを行うことは我慢する。
②問題の整理役
混乱した学生が自分から解決を見いだしていくのを助けるには、学生が語ったことを、より客観的な視点や明晰な言葉遣いにしてフィードバックすることが役に立つ。
③選択肢の提案者
まずは学生自身に問題の解決方法や行為の選択肢を考えてもらうことが重要。しかし、学生が選択肢を考えつくことができそうもないとういう場合、「こんなやり方もあるし、こんな方法もある」等、いくつかの選択肢を提示する。
④仲介者
学生の抱える問題が手に負えないものであることがわかった場合、精神科医、弁護士などのプロの助けが必要。多くの大学で、学生相談室といった名称のもとに、こうした専門家への窓口が用意されている。
3.教員の視点から見た学生のメンタルヘルスと不登校:論説の紹介
教員の立場から、学生のメンタルヘルスと不登校について論考した文献としては、以下の文献があります。
(インターネット上で公開されているので、すぐにアクセスして読むことが可能です。)
川西利昌(2005) 理工系学生と教員の心のケア 工学教育,53(3), 2-9.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsee1995/53/2/53_2_2/_pdf/-char/en
川西利昌(2017)理工系大学・高専の研究室不登校 工学教育,65(5),2-7.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsee/65/5/65_5_2/_pdf/-char/ja
著者は理工系学部のベテラン教員で、部局で学生相談を担当していた経験に基づいて書かれています。これらの文献は、「大学生と教員に何が起こっているか伝え、教員に適確な対処法を示し、また教員自身のストレスを軽減する方法を伝える」ことを目的として書かれています。例えば、学生のメンタルヘルスや不登校に教員が対処する際の心構えとして、下記のような項目が挙げられています。

〇今のメンタル的に難しい学生を指導することは、どんなに優れた教員でも困難である。
〇個人的な対応では、教員自身がつぶれてしまう。教員個人で問題を背負わずチームで対処する。
〇教員自身がつらいときは、信頼できる同僚かカウンセラーに相談する。
〇学生相談室カウンセラーに話をし、まず教員自身が心の余裕をもつ。チーム援助を試みる。
〇医療機関へつなぐには、校医、看護師に任せるほうがスムーズにいく。
〇研究室不登校を負の面からのみとらえず、正の部分にも注目する必要がある。
今まで一直線で来た学生が、研究室不登校の期間に、自分をとらえ直し、社会へ入ってゆくのに必要な人格的成長を遂げて行くことはしばしばある。
4.まとめ
(1)教員の立場から学生支援のコツについて論じた文献がいくつかあります。学生支援のあり方を考える際のヒントになるかもしれません。
(2)日常的に学生の教育や指導をしている教員による現場の工夫は、教員の皆さんが学生の相談に対応する際の心の支えになると思います。
