1.はじめに:心理的安全性を高めるには?
これまで、成果の上がるチームを作るうえで「心理的安全性」を高めることがポイントになることを見てきました。では、チームの心理的安全性を高めるために、リーダーはどのような特性を身につけ、どのように行動すればよいのでしょうか?近年、リーダーとフォロワーの絆に着目した「セキュアベース・リーダーシップ」論が注目を浴びています。ここでは、このリーダーシップ論に基づき、リーダーが身につけることが望ましい特性や行動について説明していきます。

2.セキュアベース・リーダーシップとは?
「セキュアベース・リーダーシップ(secure base leadership)」とは、「フォロワーを思いやり、守られているという感覚と安心感を与えると同時に、ものごとに挑み、冒険し、リスクをとり、挑戦を求める意欲とエネルギーを持たせる。そうすることで、信頼を獲得し、影響力を築く方法」(Kohlrieser,2012)のことです。愛着理論(コラム参照)から派生したこの概念には、「安心=思いやり」と「挑戦=挑ませる」の2つの側面が含まれています(図1)。

コラム:Q.愛着(attachment)とは?
児童精神科医Bowlby,J.(1969)が提唱した概念で、「乳児が主な養育者に対して持つようになる心理的結びつき(きずな)」のことを言います。例えば、母親を愛着の対象にした子どもは、初期には母親との接近や接触を求めますが、やがて、いつも接触していなくても安全を感じることができることを発見し、母親を安全基地(セキュア・ベース)にしながら、探索活動に熱中するようになります。
チーム・メンバーの成長を考える際に、リーダーが「思いやる」だけでは、ぬるま湯のような甘い環境になってしまい、フォロワーは仕事から充実感を得ることができません。一方で、リーダーが「挑ませる」だけでは、フォロワーは不安に駆られて十分に力を発揮することができません。「安心」と「挑戦」の2側面がある環境の中で、チーム・メンバーは学び続け、成長していくことができます。
3.セキュアベース・リーダーシップを実現するリーダーの特性とは?
セキュアベース・リーダーの特性とは、どのようなものでしょうか?この理論の提唱者であるコーリーザーらは、世界中の企業幹部を対象にアンケート調査やインタビュー調査を行い、セキュアベース・リーダーの9つの特性を特定しています。
表2.セキュアベース・リーダーシップの特性
1. 冷静でいること
プレッシャーにさらされているときにも、落ち着いていて頼りになる。
2. 人として受け入れる
相手の人間としての価値を受け入れ認める。
3. 可能性を見通す
フォロワーの隠された可能性(ビジョン・夢)に目を向ける、潜在的な可能性を引き出す。
4. 傾聴し質問する
相手に言い聞かせたり、自分の意見を主張するのではなく、傾聴し質問するというスタイルを好む。
5. 力強いメッセージを発信する
的を得たやりとりを、それが本当に必要な時に行う。要点をズバリと言う能力があり、適切なことを適切なタイミングで言う。
6. プラス面にフォーカスする
他者の目をマイナス面ではなくプラス面に向けさせる。危機や困難の中でさえも、フォロワーが学ぶ機会を見出せるようにする。
7. リスクを取るように促す
相手がリスクをとる機会を与えることによって、部下が可能性を解き放てるよう挑ませる。
8. 内発的動機で動かす
人から最大限の力を引き出すには「内発的動機」が重要だと理解しており、「外発的動機」には頼らない。
9. いつでも話せることを示す
フォロワーに必要な時に会えると思われている(実際に一緒に過ごす時間よりも、感覚や人間関係によるところが大きい)。
あなたのセキュアベース・リーダーシップ行動をチェックしてみませんか?チェックしてみたい方は、ワークシート「セキュアベース・リーダーシップの自己評価」をご活用ください。ワークシートは、こちらからダウンロードできます。
今後、伸ばしていきたい特性を見つけたら、資料「セキュアベース・リーダーシップ特性を伸ばすヒント」を参考にして、日常場面で実践してみましょう。この資料は、こちらからダウンロードできます。
4.まとめ
(1)心理的安全性を高めるリーダーシップ理論として「セキュアベース(安全基地)・リーダーシップ」が注目されています。この理論には「安心=思いやり」と「挑戦=挑ませる」の2つの側面が含まれています。
(2)セキュアベース・リーダーの特性は8つあります。リーダーとして伸ばしていきたい特性を見つけたら、日々の実践を積み重ねて少しずつ身につけていきましょう。
引用文献
①Bowlby,J.(1969):Attachment and Loss Vol.1:Attachment. London:The Tavistock Institute of Human Relations. 黒田実郎・大場繁・岡田洋子・黒田聖一(訳)(1976):母子関係の理論:Ⅰ愛着行動 東京:岩崎学術出版社.
②Kohlrieser,G.,Goldsworthy,S.& Coombe,D.(2012):Care to Dare:Unleashing Astonishing Potential through Secure Base Leadership.New Jersey:John Wiley & Sons. 東方雅美(訳)(2018) セキュアベース・リーダーシップ:<思いやり>と<挑戦>で限界を超えさせる 東京:プレジデント社.